建物づくりと復興と

本日は竣工間近の静岡ガス本社ビルの見学に行ってきました。

静岡駅の南口から東へ数分、久能街道沿いに位置するこの社屋。1階のショールームやキッチンスタジオも充実し、将来的には地域のにぎわいの拠点となることを目指しているそうです。

 

SRC造6階建て、約7500㎡の建物で外観的には道路に面した西側の日除け木製ルーバーが目を引きますが、構造上の大きな特長は梁間方向の両端に2列ずつ柱を配したダブルコラム構造で柱のない大空間オフィスを実現している点です。

 

実際フロアの中では、木製縦ルーバーのある範囲21.6m間は柱がありません。

 

北側のダブルコラムの間です。木製デッキバルコニーになっています。

 

ダブルコラムの良い点は内側の柱に大きな荷重を持たせ、外側の柱は内側の柱と梁が中央に垂れないよう引っ張る役割を持たせるという目的分けができるため、意匠上目につく外側の柱をスリムにすることができる点です。この建物の構造も、内側柱は1100角、外側柱は550角でした。

 

静岡の構造設計指針は全国的にも非常に厳しく、構造部材の大きさも他の地域より一回りも二回りも大きくなることがあります。それはそれで仕方ないところもあるのですが、デザイン上ではいつもせめぎあい。

 

何か解決策がないかと頭をひねりひねり設計に取り組んでいるので、デザインを専門とする自分ですがついつい構造のほうに話がいってしまいます(笑)

 

またこの建物にはガスエネルギーと自然エネルギーを融合する環境設備がふんだんに設けられています。

 

太陽熱によるソーラークーリング(写真手前)、太陽光発電パネル(契約電力の1/10を賄う)、階段室から自然換気を自動で促すエコタワー(写真左奥)、コージェネレーション発電機(排熱も活用)やデシカント外調機(導入外気から湿度を取り除き体感温度を下げる)。

クールチューブ(地面の下から冷やされた外気を導入)に屋上緑化(空調負荷を抑える)などなど、環境設備を計画途中で一切妥協しなかったおかげで、建築環境総合性能評価(CASBEE)で最高評価Sランクを受賞しています。

 

配置・断面計画においても、オフィスというものは基本的に冷房負荷のほうが高いため、階段やEV、トイレなどのコア回りも南面に配置し、「常に下から上に風が抜けていくオフィス」というものをイメージしています。

 

すべて静岡ガスが総合エネルギー企業として発展していくための大きな投資です。

 

 

先日、東日本大震災から二年が経ちました。

 

その間建築界では構造(耐震、制震、免震)、環境(エネルギー供給方法、環境負荷、非常時ライフラインの確保)に加え、コミュニティーデザイン(住民やまちづくりにおける人々や生活の営みなどのつながり方のリ・デザイン)について主に議論が見直されてきました。

 

一つ目と二つ目はお金がかかります。三つ目は時間と手間がかかります。

 

しかし気づいた時が改革するチャンスです。そこで選択が問われます。

 

現在、復興が遅い、時間がかかると思われている方が大半だと思います。もちろん被災された人たちの日々の苦労や不自由、孤独や精神的ショックを考えれば軽軽なことは言えません。

 

しかしその裏でこれを日本再構築の大きな機会と捉え、日夜脳漿を振り絞り、汗を流し、声をからしている設計者・関係者達が大勢いるのも事実です。

そしてその誰もが、やっつけ仕事はできない。より質の高い、文明の進歩に貢献するものを創るんだという気概であたっています。

 

何百年に亘り形成されてきた地域を再生するということは本当に大変なことです。政府の責任、だれそれの責任と言う事は簡単ですが、本来時間がかかって当たり前なことなのです。

 

情報の行き交うスピードが上がったからといって、デザインの検討にかけるスピードが上がるわけではありません。こういう建物だって企画から設計に1年2年は普通にかかります。 意匠や構造、設備を統合しシンプルでサスティナブルな仕組みをつくりあげるには、やはり慎重な検証と選別が必要なのです。

 

社会に投資をすること、社会をつくるということはそういうことです。

 

だからこそ人は、少しずつでもより良いものを目指して、一歩一歩進むことができる。

 

粘り強く希望を持って復興を願いたいと思います。