岡山の旅5

旅の最後は倉敷にやってきました。ここから大学の先輩であるタカさんと合流です。駅の南口を出て美観地区へ。大通りは冷たい風が吹いていましたが、ここにくると少し穏やかになった気がします。徒歩10分くらいの距離でしょうか。高い建物はありません。ここを訪れるのは20年ぶりです。

お昼御飯を食べようと二人でお店を探しながら裏通りに来たつもりがこちらもたくさんの人が行き交っています。商店街から続く通りだからでしょうか。美観地区と言っても、ただ保存されているのではなく、美観を保ちながら経済活動を行っている地域ということで、若い方も多くお店の新陳代謝も活発そうです。

倉敷は幕府の天領で水運を利用した備中の物資の集積地でした。多くの蔵が並び豊かさが街に行き渡っていたようです。戦争でも空襲を受けなかったためこのような景観が現在でも残っています。もちろん全て数百年前の建物ということではありませんが、在りし日の姿を継承しながら現在の社会生活に合わせて街をつくっています。いろいろな街づくりのNPOや大学なども関わっているのかな、穏やかな賑わいがあります。

修景の要素で言えば、例えば川があるからと言って手摺があるわけではありません。そこは良識。この地で暮らすという感性の部分です。そういったことの積み重ねがこの街をつくっていると思いますし、その精神的支柱がこちら・・・、

大原美術館です。倉敷に大原財閥あり。庄屋をつとめた大地主の大原家が倉敷紡績を設立し、大原孫三郎氏においては中国電力、中国銀行の社長も務め、美術や教育、社会福祉事業にも広く関わりました。

学校がなければ学校を、病院がなければ病院を、皆の為に世界中から名画を集め、子どもの為に託児所や孤児院、奨学金も用意する。経済活動で得た富を社会のために使うという大きな視野の事業家でした。

大原美術館はいくつもの分館に別れており、西洋から東洋、工芸、現代アート、古代オリエントと幅広く鑑賞することができます。1300円の入館料はかなり良心的だと思います。私自身は、大原孫三郎さんが支援した児島虎次郎の絵がいいなと思いました。戦前ヨーロッパに渡り、名画を収集する役割も果たしてきましたが、彼自身はベルギーのゲント美術アカデミーを主席で卒業していますし、同世代の名画よりいいと思うものもありました。この二人の尽力で、倉敷の文化に対する感受性の芽が生まれたのでしょう。

美観地区の後ろの山をぐるっと回って10分も歩けば倉敷中央病院。こちらも大原氏が設立しました。

実は今回岡山に来た本当の目的は、この病院に入院している大学時代の友人の御見舞です。

年末に偶然静岡のカレー屋さんで会ったタカさんから彼のことを聞きつけ、今回足を運ぶことになりました。幸い合うことができ、話すこともできました。5年ぶりかな。笑顔にホッとしました。

 

病院に行く前に立ち寄った御自宅で彼のお母様と妹さんにも会うことができ、挨拶ができたこともよかった。実は私は今から20年前の大学生のときに、彼とバイクで横浜から倉敷まで旅をしたことがあります。

彼にとっては帰省手段の一つでしたが、自分の中ではその時の思い出がかけがえのないものとしてずっと残っていました。

 

豊橋のガソリンスタンドの店の隅で寝袋で寝かせてもらったり、美術館や建築をみたり。桑名の公衆浴場で湯船につかりながら仲良くなった人が立ち上がったら刺青いっぱいで腕がなかったり、鈴鹿峠を飛ばすトラックに恐怖を感じながら走り続けたり。大雨に見舞われて当時京都にいた妹さんの女子寮にこっそり泊めていただいたり(たしか連泊)、夜中のフェリーで渡った淡路島で疲れ果て人に聞いた話を頼りに交番で休ませてもらおうと思って行ったらラブホテルでも行けと追い出されたり。香川のうどんのスタイルに衝撃を受けたり、瀬戸大橋の上を走りながら風で吹き飛ばされたら落ちるんじゃねってビビったり、思い返せばキリがない・・・。

彼の実家にもご厄介になり、あの年頃の自分にとって本当にいい経験をしたと思います。

 

何より、初めて訪れた瀬戸内海の風景の美しさには驚きました。こんなところに住んでる人たちが羨ましかった。岡山の成羽町の吹屋の街並みや美術館、桃太郎の吉備津神社など、西日本の風土に触れることができたことも大きくて、その後で本を読むときに頭の中に一気に世界が広がるようになりました。

 

実際にバイクで走ったから日本の大きさを体感的に理解することもできましたし、人との出会いは本当に楽しいものなんだなと思えたことが良かったです。

 

彼とは建築も演劇も一緒だったけど、個人的な思い出としてはこの心象風景のほうが大きい。だから倉敷にいると聞いたらどうしても行きなくなってしまったのかもしれません。

帰り道、丹下健三が設計した倉敷市立美術館(1960年完成、旧倉敷市庁舎)をちょっと見て、岡山から新幹線に乗って静岡に帰りました。

 

ひかり指定席で3時間ちょっと。お酒を飲みながらタカさんといろんな話をしました

 

タカさんの会社の人事移動や単身赴任の制度の話、就職活動の時の話を聞きながら、働く人達のいろいろな横顔がおぼろげに浮かんでは消えていきました。